日本翡翠情報センター(糸魚川翡翠・ヒスイ海岸・翡翠勾玉・翡翠大珠・ひすい)

日本翡翠と勾玉、天然石の専門店《ザ・ストーンズ・バザール》が運営する日本翡翠専門のホームページです。『宮沢賢治と天然石』『癒しの宝石たち』『宝石の力』(ともに青弓社刊)の著者・北出幸男が編集・制作しています。(糸魚川翡翠・ヒスイ海岸・ヒスイ採集・翡翠勾玉)。

てんで見分けがつかない翡翠とよく似た鉱物の図鑑

挿絵 飛龍30mmは当社オリジナル製品、古代中国の紅山文化から出土した原初の龍をモデルにしています

30mmサイズの吉祥勾玉。ごく淡い薄紅色の色合いが「和」の風味をかもしていてとても上品に見えます

20mmサイズの新芽勾玉は葦の若芽や穀物の芽吹きをモデルに、パワーが沸きたつ様子を表現しています

挿絵 「30年に1度のピンクヒスイ」と命名された原石。こんなに気品のある桃簾石は珍しい。重量4.9kg, 195x170x70mm

総重量約53kgのピンクヒスイ原石を5分割した。
濃い色目のピンク色と濃緑色のまだら模様が美しい

5分割した原石の1片。
重量約9kg,300x200x55mm。
濃緑色部分にはアニョライトという別名があるという

こういう濃い色合いのピンクヒスイ原石にはめったに出会えない。
重量約3kg, 150x130x90mm

おおむね平均的なピンクヒスイ原石はこんな感じ。ごく淡い薄紅色が表面ににじんでいる。
重量約17kg,330x190x180mm

福岡県飯塚市古屋敷というところで採集されたピンクヒスイの標本。
重量46g, 50x28x22mm

ノルウエー産のチューライト(ピンクヒスイ)原石。薄い色合いのものやもっと濃いものもある。
重量118g,56x33x60mm

[1]ピンクヒスイ(桃簾石)

ピンクヒスイは日本翡翠の産地、糸魚川地方で採集される翡翠類似石の一種で、白色翡翠に似ているためピンクヒスイの愛称で親しまれています。

翡翠について詳しくないのであれば見分けがつかないほど、ピンクヒスイは白い翡翠に似ています。勾玉などに加工された両者を見比べるとピンクヒスイのほうがやや粉っぽい感じがして、多くの場合、うっすらと赤味をおびています。アメシストに濃い紫色から桃色に近いものまでいろいろな色味があるように、たいがいの鉱物には色の濃淡があって、ピンクヒスイも同じ糸魚川産であっても色紙のように濃いものから、桜の花弁のように淡い色合いのものや、緑色と混ざりあってウグイス色したもの、ほぼ真っ白なものまでいろいろな原石が採集されています。

ピンクヒスイの勾玉は桜貝に似た少女の爪の色に似て、その可憐さは「こんなに美しいものは見たことがない」と思えてしまうほどです。

平均的な原石では薄桃色をベースに、緑色が混ぜ合わさってウグイス色した部分や、濃緑色、黒色などのまだら模様になっています。全体がごく淡い桃色の塊状原石も産出します。 ピンクヒスイは鉱物学的にはゾイサイトの仲間で、和名は桃簾石(とうれんせき)。英語名チューライトはノルウエーの古い地名チュールにちなんだ命名です。ノルウエー産のものは概して糸魚川産よりも赤味が強い色合いをしています。国内産では福岡県でも若干採集されています。このピンク色の発色はマンガンの含有によります。

鉱石のマンガンは鉛をいぶしたように黒いのに、ごく微量が他の鉱物に含まれると、インカローズ、ドロマイト、クンツアイトなどのように赤や薄紅色に発色するというのは、イオンによる可視光線の吸収と反射で説明できることであっても、やっぱりとても不思議なできごとです。

中国産エピドート(緑簾石)結晶。スダレの名に似つかわしい形状をしている。
重量約70g、上下に約60mm

中国四川省産、水晶と手をとりあったエピドートはときに水晶に内包されている。
重量約900g、 125x110x65mm

ブラジル産エピドート結晶。エピドートはトルマリンに似た結晶を成長させるものが多い。
重量25g、 46x26x16mm

パキスタン産エピドート結晶。サムネールサイズ。垂面のある結晶は珍しい

パキスタン産水晶に内包されたエピドート。グリーンルチルのなかにはエピドートが内包されているものがある

ゾイサイトに随伴したエピドートと思っている。中国産。
重量3900g, 200x180x130g

タンザニア産のルビー・ゾイサイト原石。若やいだ緑色のゾイサイトに小豆色のルビーが埋め込まれたように随伴している。
重量2400g, 180x127x68mm

ゾイサイトの藍色をした結晶がタンザナイト。天界の色合いに魅入られてしまう人が多い

ゾイサイトは分子構成が、カルシウム+アルミニウム+ケイ酸塩+水酸基からなっていて、鉱物学的にはエピドート(緑簾石)のグループに加えられています。エピドート・グループの代表格であるエピドートの鉱物標本は、多くの場合、トルマリンに似た柱状結晶が販売されています。エピドートの分子構成は、カルシウム+鉄+アルミニウム+ケイ酸塩+水酸基からなっていて、エピドートの結晶構造はそのままで、鉄の含有が少なくなると、鉱物名が変わるという次第です。結晶質のゾイサイトでわずかな紫味を帯びて、透明宝石質のものはタンザナイトの宝石名で知られています。

タンザナイトには天界でキャンデイが配付されるなら、こういう色合いをしているだろうと思わせるようなマジカルな味わいがあります。

[2]ネフライトはヒスイ類似石の筆頭

ネフライト(軟玉翡翠)とヒスイ(硬玉翡翠)は和名からして混同しやすい天然石ですが、両者は同じ仲間ではありません。一部の人たちからは翡翠模造品の扱いを受けていますが、ネフライトにはネフライトならではの良さがあり、古代中国では、最高の宝物とされてきました。

当社オリジナルの30mmギョロメ勾玉。糸魚川地方姫川産のネフライト原石を使用しています。ギョロメは魔除けの効果大の勾玉

姫川産のネフライト原石から制作した6mm玉ブレスレット。このように色合いが薄く透明度が高い国産ネフライトは貴重です

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(1)ホームページの写真はサイズがわかりにくいのが難ですが、この原石は重量10kgと滅多にない大きさ。約270x190x140mm
(2)ジェードハンティングのメッカ、富山県朝日町のヒスイ海岸では、小粒のネフライトを比較的容易に採集できます
(3)姫川産ネフライトは濃緑色のほかに濃紺混じりや黒色など、いろいろな色合いのものがあります。写真は切断片で1097g,約107x100x48mm

研究機関で鑑別しないと真贋はわからないのですが、研究者目視で白ネフライトという姫川産の希有の原石。1453g,約125x115x70mm

富山新潟県境地方産の白と緑のまだらのネフライト原石。純白のネフライトを採集できれば姫川は「玉(ぎょく)」の聖地になります。1100g,約100x80x60mm

長崎県は日本中に10ヶ所ほどある翡翠発見地のひとつ。この産地のネフライトには貝が開けた穴のあるものがあります。写真の標本は255g, 約100x73x27mm

糸魚川市の青海川で筆者が採集した濃緑色のアクチノライト(透緑閃石)。柱状結晶が密に集合しています。217g,約74x59x32mm

アクチノライト(透緑閃石)とネフライトは同じ鉱物。極微の結晶が集合して岩塊状になったものがネフライト。長崎県産。202g,約80x58x43mm

愛媛県四国中央市土居町産のアクチノライト。針状・繊維状結晶が多数凝集していて、パワーの強い石薬の面持ちがあります。352g,約95x62x42mm

ネフライトは日本翡翠を愛用するうえで知っておきたい宝石鉱物のひとつです。ネフライトはアクチノライトやトレモライトなど角閃石の極微の結晶が凝集したものをいいます。だからネフライトは鉱物名というよりおおむね単一の鉱物微結晶が集合・凝集した岩石名といったほうが正しいといえます。

トレモライトは基本色が白色で和名は透閃石。鉄分がまざると深緑色に発色してアクチノライトになります。和名は透緑閃石で、陽起石という漢方薬的和名もあります。古代中国では陽起石は仙薬の一種とされ、これを煎じたり、微粉末を飲用すれば精力絶倫になるとの考えに由来します。漢方やインド医学では薬物に植物薬・動物薬・鉱物薬の3種を数え、鉱物薬を最上位にランク付けしています。

アクチノライトは針状、柱状結晶の集合体として産出する場合が多く、グリーンルチルとよばれる水晶のなかには、針状のアクチノライトが内包されたものがあります。

「翡翠」という場合、少し前の時代までは、硬玉翡翠としてのジェダイトと軟玉翡翠としてのネフライトの2種類があるとされてきました。この区分けはいまもなお翡翠初心者にとってやっかいなことがらとなっています。濃緑色半透明でリングやペンダントなどに使用されるのは硬玉翡翠であり、ネフライト(軟玉翡翠)はそれに比べれば安価である、との常識はたくさんの製品を実際に見て納得できるまでは理解できません。またネフライト製品には色合い、質感ともに翡翠とそっくりで見分けが困難なものもあります。

ジェダイト(硬玉翡翠)の基本色は白であり、異種鉱物が混ざることで緑・青・黒・藤色などに発色するということを知っていないと、他の岩石と翡翠を区分けすることもできません。富山新潟の県境地方のヒスイ海岸で翡翠原石を探すジェードハンターにとっては、ネフライトと翡翠(ジェダイト)の違いは説明するまでもないことですが、ときには黒いネフライトと思って捨てた石が高価な黒いジェダイトである場合もあります。黒い翡翠と秘蔵したのが価値のない岩石だったりもします。

翡翠はローマ帝国の建国以来およそ2000年の歴史を通じて、西欧では価値が認められてこなかった宝石で、欧米の鉱物学者には重きをおく必要もなく、中国からの玉製品と中米から運ばれてきた翡翠を同じ石とみなしてジェードと呼びならわしてきました。のちになって組成が異なることが発見され、ジェードはジェダイト(Jade+iteでジェード石の意味、硬玉翡翠)とネフライト(腎臓の石の意味、軟玉翡翠)のふたつに区分けされるようになりました。鉱物学的にはジェダイトは輝石の仲間であり、ネフライトは角閃石の仲間に分類されています。輝石と角閃石は鉱物のグループ名です。とても大ざっぱに、鉱物組成としては輝石に水酸基OHをつけると角閃石になります。

明治になって鉱物学や地質学など西欧の学問体系が日本に入ってきて、日本ではジェードを翡翠と翻訳しました。このとき「玉(ぎょく)」の英語がジェードだったので「玉」をも翡翠と訳してしまったのが間違いのもとで、以後日本人にとっては玉と翡翠が区別できなくなってしまいました。

玉は中国語で宝石を意味します。古代中国人にとって宝石は、ダイアモンドやルビー、エメラルド、など透明硬質なものより、人肌に似たぬくもりがあり半透明な石を好んだので、ネフライトはもっとも貴重な宝石とされ、なかでも白色半透明なものを最高の玉としてとうとんできました。中国人がミャンマー産の翡翠を知ったのは清朝の乾隆帝(1711-1799)以降と新しく、それまでは先史時代から明に至るまで、最高の玉は真玉(しんぎょく)とよばれネフライトを指していました。

日本翡翠に対する審美眼を養うには、小さくてもいいのでホンモノの原石標本をコレクションして、機会があるごとにたくさんの翡翠やネフライトを見比べると、両者の違いがわかってきます。玉(ぎょく)製品は日本人には馴染みがないこともあって理解しずらい分野です。「第6章・翡翠と玉」で、再度話題にする予定でいます。

■ネフライトはいろいろな国に産出する

ミャンマー産のネフライト原石 ミャンマー産の透光性の高いネフライト原石。重量7.7kg,約250x125x140m。ミャンマー産ネフライトは滅多に日本に入ってきません。中国に運んだほうがより大切に扱われるからのようです

ロシア産のネフライト原石 ロシア産のネフライト原石。高品質なものでカボーションカットするとキャッツアイがでる貴重な原石です。重量776g、約83x80x44mm

カナダ産ネフライト原石 カナダ産ネフライト原石。ブリティシュ・コロンビア州を略してBCジェードと通称されます。市販のビーズ類はたいがいこの産地のものから加工されます。

ニュージーランドは世界有数のネフライト産地として有名。しかしお土産品のいくつかはBCジェードを香港の業者が制作して輸出しています

ニュージーラントの伝統的デザインのひとつ。先住民のマオリ族はハワイ先住民と同じポリネシア系の人たち。精緻な図象が世界的に注目されています

アメリカ産ネフライト原石と、原石から制作した20mmサイズの小型勾玉。20年ほど前にアメリカから原石を輸入しました

ブラジル産ネフライト原石と30mmサイズの勾玉。同じような色合いのネフライトが長崎県やヒスイ海岸で採集できます

台湾産のネフライト原石。かつて台湾は世界有数の良質ネフライトの産地で、日本にも台湾翡翠の名称で輸入され、翡翠と混同された。重量1443g,約170x150x20mm

台湾の花蓮の海岸で採集されたネフライト原石。日本のヒスイ海岸での採集品に混ぜたら区別できなくなります。重量209g 約90x60x25mm