POWER OBJECCT
1.勾玉(勾玉は身体にパワーを付着させる)
◆勾玉は「胎児の形」に似ています。胎児に魂が宿って赤子となるように、勾玉に祖霊が宿って持ち主を守護してくれる。災いを未然に防ぎ、幸運をもたらしてくれると古代の人たちは考えていたようです。『古事記』でアマテラス大神が弟神スサノウの訪問を侵略と勘違いして対峙する場面では、髪飾りやネックレス、ブレスレットに数えきれないほどの勾玉をつけて霊的武装する話はとても有名。ヤサカニノ勾玉という立派な勾玉は天皇家の皇位継承の品「三種の神器」のひとつとされています。
◆勾玉の「勾」(まがる)という字は、「匂」(におう)という字に似ていて、「匂」には鼻で匂い・香りをかぐという意味のほかに、濃密な「気」を感じるという意味があります。たとえば美しさが匂いたつほどの麗人といえば、いい匂いがする人という意味ではなく、綾なすオーラがまばゆく輝いている美人という意味。「咲く花の匂うがごとくいま盛りなり」は、花の匂いが都に立ちこめているのではなく、百花繚乱した花たちのようにまばゆいばかりの生気にあふれた都という意味。
◆勾玉を「曲玉」ではなく、「勾玉」と書いた古(いにしえ)の人たちは、勾玉から湧きたつパワーを感じたり眺めることができて、「匂」に姿の似た「勾」を選んだのだと思ったりしています。勾玉は古代の人たちにとっては、実際にパワーを感じ取れる守護石・物実(ものざね)だったことでしょう。日本翡翠勾玉については発端から消滅、日本神話のなかでの取り扱い、出雲と碧玉勾玉などについて、さらに詳しくを順次、「第5章・日本翡翠の古代史」で話題にします。
勾玉の形に毎日を心地好く暮すパワーのカギが隠されている
日本翡翠情報センター好みの正しい勾玉の選び方
◆勾玉は全体を魚に見立てて、穴を眼、眼のある部分を頭といい、くぼんだほうが腹で腹の反対側が背、腹と頭の境目あたりを顎、頭と反対側の先端を尾といいます。勾玉は形が獣や鳥よりも魚に似ているので、このように名付けられたのだと思います。敵に向かって(1)眼でにらみ、(2)顎で威嚇する、(3)背で見栄を切り、(4)尾で敵を打つ、というのが霊的に作用するときの勾玉の機能です。だから勾玉は眼はくっきりとして、背は丸みをおびて力強く、尾は太くてしっかりしているのが理想です。
◆こうやって好みの形や大きさ、色合いの勾玉を選ぶのですが、骨董品・美術品を選ぶのと、勾玉のようなパワー・オブジェクト(物実・ものざね)、つまり精神世界的な製品を選ぶのは同じではないということを知っておくのが一番大事です。
◆私たちは自分の意志・自我を生活の基礎とする暮し方にすっかりと慣れています。あらゆるものごとは自分の意志で決定し、自分で選ぶことが正しいといった思いに縛られています。けれど精神世界的な事物・出来事はこうした世界観に属していません。スピリチュアルな世界を想定してそれを向こう側の世界と感じるなら、パワー・オブジェクトは向こう側のパワーをこちら側・私たちの日常性へと運んでくるパワーの媒介物になります。このような次第なので、こちら側の世界だけで通用する自分の意志・自我だけで勾玉を選ぼうとすると、必要でないものを選んでしまうことになります。
◆何かを見て、心地好いと感じるのは、それをいま自分が必要としているから、というふうに思うのが選び方のコツと思っています。自分の思いで選ぶのは7-8割にして残りは運任せ・天任せの気持ちで選ぶ、いっそのこと神意と思って選ぶと、自分にぴったりの勾玉を得られます。ここらあたりの気配りがわからないと、いかに高価な勾玉を選んでもただの美術品ということになってしまいます。
◆勾玉を選んだら、次にはそれを育てる、「勾玉が育つとともに自分も育っていく」ということを考えてみてください。昔の中国で玉(ぎょく)を愛玩する人たちは「油養」といって、その道の達人から譲り受けた特殊な油や、代々伝わる秘伝の油を玉に塗って、製品を枯らさないよう気遣ってきました。そうやって玉が成長するのと歩調を合わせて自分も成長できました。勾玉を養うのに特別な方法はありません。折に触れて勾玉をなでたり、親指の腹でこするなどして、慈しむ気持ちを持つことが大事で、そうしてこそ勾玉は力強いパワー・オブジェクト(パワーの蓄電池)になります。
◆順次触れていきたいと思いますが、パワーは感じることが大事ではなく、それを自分に付着させる、または自分のなかに導き入れて自分の力にすることが肝要です。古代史のなかの日本の天皇や中国の皇帝は並の人間がなれるものではありませんでした。おおがかりな儀式+密儀によって天皇霊・皇帝霊という強大なパワーを付着させる、または憑霊させることで超人間としての天皇や皇帝になれるとされてきました。「勾玉のパワーを着る」という感触がつかめるなら、「古代の息吹」が自分の内側で目覚めるのが自明の理となり、日本翡翠製品によってグッとパワーアップされた自分へと自己を再生させられます。日常的な自我を超えた自己に出会えます。たぶんこうした感触を得ることこそが、勾玉が1500年の時を超えて現代によみがえった理由だろうと感じています。
2.獣形勾玉と新作勾玉(勾玉の形が苦手な人のために)
◆始めて獣形(けものがた)勾玉を知ったとき、日本の古代にも幸運を運んでくる獣形の精霊/ブリンギング・アニマルがいた! と感激しました。彼らは人間を異界へと先導する力を秘めているのでパワー・アニマルとよばれてもいます。
◆世界各地の古代文明や呪術色の濃い辺境の文化では、獣や鳥は異界・霊界・神秘的世界への先導者であり、死者の霊を冥界に運んだり、逆に新生児の魂を彼岸から現世へと連れてきたりしていました。スピリチュアルなフィールドへと人をいざなう動物ないし獣形精霊がパワー・アニマルです。こうした文化では現実世界は広大な精神宇宙の断片であるにすぎず、現実世界だけが実在するとは考えられていませんでした。
◆獣形勾玉の原形は縄文時代に作られていますが、いっそう獣らしく形が整ったものはおもに北九州や瀬戸内海沿岸の古墳時代の遺跡から出土します。この時代のこの土地には、アメリカ・インディアンの例で知られているように、シャーマンたちがビジョン・クエストして生涯の友となる精霊と出会う、というような信仰があったようです。
◆「日本翡翠には興味がある。けれど勾玉のあの形はどうも好きになれない」という意見があって、通常の勾玉とは異なる、いわば現代風勾玉を開発・製作しました。
◆勾玉の形は何に由来するか? については、獣の牙説・魚説・月の形説など定説はないのですが、個人的には胎児の形であろうと思っています。胎児に魂が宿って人間の赤子となるように、硬くて美しい石で「祖霊の宿り」となる形を作れば、そこに祖霊=神霊が宿って持ち主を守護してくれるという信仰があったのだと思います。縄文時代の勾玉と、弥生・古墳時代に大流行したカシューナッツ・スタイルの定形勾玉との間には、象徴の読み替えがあったようにも見受けられます。
◆勾玉が胎児を連想させて生々しいというのが勾玉嫌いな人たちの意見のようです。胎児の形であるからこそ、強力な霊的パワーの宿りとなると考えれば、勾玉ファンに変わると思うのですが、まずは勾玉敬遠組の人たちにも日本翡翠を好きになってもらいたくて、新作勾玉ではパワーのうねりを象徴する神秘的な「形」を取りいれました。
◆いまから5千年ほど前、縄文時代中期に世界初の翡翠製品・翡翠製大珠が発明・製作されたのですが、ほぼ同じ時期に翡翠などを素材に、紐でつり下げられるよう孔を開けた磨製石斧が作られています。それらは実用的な蛇紋岩主体の石斧と違って、刃が丸められていて実用性がないように見えるため、護符として作られたと想像されていて、一般の石斧とは区別して「玉斧(ぎょくふ)」とよばれています。
◆古代文明ではたいがいの武器は信仰の対象になりました。古代インドの武器・金剛杵は仏教では宇宙の真理の象徴となり、古代日本で青銅の剣や矛が支配者の象徴となり、おそらくは神々=祖霊に捧げられて、祖霊をパワーアップしたように、あるいはヤジリが目的を射止めるお守りになったように、石斧も支配者の武力の象徴となり、願望を実現するお守り、強烈なパワーで「魔」を打ちのめす護符とされてきました。
◆《ザ・ストーンズ・バザール》の玉斧は稲穂や茶葉を摘むには不向きでも、魔や亡霊たちには光り輝く武器であり、身辺守護に役立つばかりでなく、目標を達成するパワーを与えてくれます。石たちのパワーはその感触を呑む、または着るつもりになることで自分のパワーとして役立てられます。